2013年も残すところあとわずか。
この一年、サンパチオフットサルクラブには監督の交代劇、紅谷大陸の発見、宿村の覚醒など、実にさまざまなニュースがあったが、もっともメモリアルなシーンと言えば、2013年11月30日。大川高志(No.11)が、今季絶好調の美少年を相手に決めたゴールだろう。
あの日、彼のあれほどの活躍を誰が予想できただろうか。世界一のサンパチオフリークと言われている私でさえ、あの劇的なゴールには驚きを隠せなかった。
12月中旬新宿、約束の銀行前で寒さに耐えていると、高志は横断歩道を駆け足で渡ってきた。「お待たせしました、打ち合わせが長引いて。すいません」この日の東京は、雹が降るほど冷え込んでいた。
都内の天候の変化に気付かず薄着で自宅を出た私は、寒さから逃げるように近くの珈琲屋に彼を連れ込んだ。高志にアポイントをとったのはおよそ2時間前。それでもこうして付き合ってくれるのだからありがたい。唯一空いていたカウンターの席を確保し、直撃取材がスタートした。
サンパッチーニ:まずちょっとあやまりたくてね。
大川高志(以下、高志):え?あやまる?
サンパッチーニ:正直、先日のゴールにぼくはとても驚いた。この驚くって言うのがとても失礼な感情だなって思って。だからごめんなさい。
高志:ああ、そうですか、そんなこと言わなくてもいいのに。
サンパッチーニ:それと、あのゴールって実は奥が深いなと。高志はあの試合、都リーグ今季初出場だった。にもかかわらずゴールを決めてくるっていうのは、ただ運がいいだけではない気がする。振り返るとあの場面の前にシュートを3本も打っている。これは見逃せないデータだと思う。あの日までにどんな準備をしていたのか、どんな気持ちでコートに入ったのか。その辺を取材したい。高志の答えからサンパチオがもっと進化するために必要なことも見えてくる気がしているんだ。
高志:あはは、なるほど。進化ってちょっと大げさですけど。
サンパッチーニ:あの得点は、やはりかなりの準備と計算があった上でのごっつぁんゴールだった?
高志:あ、また言ってる、ごっつぁんっていう言葉を使うのやめてくださいよ。これ、前にもお話ししませんでしたっけ。フットサルにごっつぁんゴールなんてものはないんです。
あれは昨年の夏。高志が全国大会予選で衝撃のハットトリックを達成した際のインタビューだった。ゴール前にフリーで走り込んだ高志が、やさしいアシストを受けて決めたゴールを、私は今日と同じようにごっつぁんと表現し、彼からサンパチオフリークとしての甘さに気付かされたことがあった。
サンパッチーニが聞き出す試合の真相
高志:サンパッチーニさん、ゴールって言うのは常に必然なんですよ。だから準備も計算もありました。ごっつぁんゴールっていう言葉がでるだけでみんながフットサルを誤解してしまうので、気をつけてくれないと困ります。誰なんでしょうね、ごっつぁんゴールなんて言葉を使いはじめたのは。
サンパッチーニ:…ごめん。ほんとにごめん。悪気はないんだけど、つい…
高志:まあ、いいんですけど。
サンパッチーニ:いきなり、いやな嫌な気分にさせて申し訳ない。でも、準備と計算がやっぱりあったんだね、あのゴールには。
高志:はい、まあ、ありました。
サンパッチーニ:それは、どんなことだったのかな?言える範囲でかまわない。
高志:ひとことでは言えないんだけど、大事だったのは自己アピールでしょうか。
サンパッチーニ:自己アピール?
高志:自己アピールというか、自己分析ですかね。
サンパッチーニ:と言いますと?
高志:正直、今の自分が出来ることには限りがありますから、それをまず自分がちゃんと理解した上で、チームメイトにぼくの活かし方を知ってもらうことを心掛けてきた、そういうことですね。
サンパッチーニ:高志の得意なプレーを知ってもらうということ?
高志:まあ、そう言うことになりますかね。ぼくの得意なプレーっていうのは、雅己の左足のシュートだったり、慧の縦突破だったり、萩のドリブルシュートみたいな、そういう分かりやすいものではなくて。自分でも最近気付いたことなんですけど、とにかくワンタッチでゴールできるところにいるっていうプレーです。これは一種の悟りの結果でもありますね。
サンパッチーニ:悟り?ですか?
高志:ある時までは、おれだって出来るはずだ!できるはずだ!と思っていたんですけど、気付いたんですよ、できるわけがないって。走るのは遅くなった、当たりも弱くなった、キレもなくなった、そしてそれを補うトレーニングをする暇もない。
サンパッチーニ:お子さまも生まれて忙しくなりましたもんね。
高志:そうなんです、子供は監督をやめた理由の一つだったわけですが、息子が生まれてくると、これが予想以上にかわいいので、ついイクメン活動のほうにも力が入ってしまうんですね。これではもう技術的な向上を望めるわけがないんですね。年齢も36歳ですから。
サンパッチーニ:普通の人ならとっくに引退ですよね。でも髙橋雄一のように復活する選手もいますが。
高志:あ、雄一ね。彼と比較するとぼくの準備と計算は分かりやすくなるかもしれません。
サンパッチーニ:どういうことでしょう?
高志:雄一は悟りの一因なんです。彼はなんだかんだすごい奴なんですよ。子育ても落ち着いてきて、練習に時間をさけるようになっただけじゃなく、日常的に自転車通勤したりと、体力を維持する環境が整っていたんですね。かなりスピードは落ちましたが、もともとドリブルも得意だったので、たまに若手を交わすプレーもしますからね。そして何より、チームの雰囲気を変えてしまう持ち前のキャラクター。ミスターサンパチオは伊達じゃない。
サンパッチーニ:たしかに。
高志:雄一の復帰が決まったとき、正直、このチームにぼく以外のベテランが増えるのはヤバいなという思いもありました。ベテランが決めると盛り上がるというのがあるじゃないですか?今季はそういうポジションでいくかと思っていたんですが、その役割を負うベテランが二人というのは多すぎると思って。監督も選手選考が大変でしょ。
サンパッチーニ:それはそうかもしれません。
高志:実際、得点差がついて勝敗が決まっていた試合でも、雄一は出れて、ぼくは出られない。そんな日もありました。
サンパッチーニ:それは、仕方がないことです。
高志:そうですね。でもそこで気付いたんですよ、雄一も苦しんでいるなと。
サンパッチーニ:どういうことでしょう?
高志:彼は不運だったと思います。テクニックが通用していたとこもあって。うーん、なんと言うか全盛期のようなドリブルシュートはどうしても難しいんですね。でも、自ら得意の体勢にボールを運んでからシュートを打つというクセが抜けてなかったと思う。ボールをもらう位置も、タッチライン沿いが彼の得意ゾーンでしたが、このリーグのプレッシャーの中ではかなり難しんだと思います。
サンパッチーニ:雄一選手は、一部は初めてですしね。
高志:その点、ぼくはどうかというと、何も出来ない。だから木下監督からも声がかからない。ベテランの起用は雄一を出場させるのが精一杯という。
サンパッチーニ:あはは、って笑って良いのでしょうか?
高志:で、大事なのは何も出来ないというのをチームメイトに分かってもらうということなんですね。
サンパッチーニ:ほほう。
高志:雄一に対しては、みんなもどこか普通の選手としてのプレーも期待していた思うので、一緒に出るメンバーもそういう動きになる。これがぼくの場合は、高志は何も出来ないから、というのが前提の動きになる。だから、ゴール前にボールを運ぶまで、ぼくは囮として扱われるようになる。相手チームはそういうことを基本的には知らないですから、ぼくにもしっかりマークを付けちゃいます。この現象をチームメイトに知ってもらうように普段の練習からオフザボールのランをひたすら繰り返すわけです。こういったことが準備ですね。
サンパッチーニ:なるほど。
高志:つまり事実上の3人対3人を演出するんですね。まともに4人対4人だと、何も出来ない選手のいるチームが不利にきまっています。
サンパッチーニ:ずいぶんと自虐的ですね。
高志:いいんです、これが悟りです。でもこれはテクニックと戦術眼に優れたチームメイトが必要なんです。とくに土屋、本多が、ぼくを囮にするメリットをとても理解してくれていました。このことについてぼくから監督に進言することはなかったんですが、木下監督もそこを感知する能力はやはり高くて、あの試合では土屋、本多、木下、大川というセットを組んでくれました。
サンパッチーニ:さすが木下監督です。
高志:と、言ってもまあ、何も出来ない人間が出場するリスクはあります。ぼくらのセットが出た直後に先制点をゆるしてしまったことは、忘れていけないことだと思います。ぼくが相手のイーブンの競り合いに負けたところからの失点だったと思います。個人的には開き直っていましたが。
サンパッチーニ:開き直る、やはりそこは高志らしさじゃないんですか?
高志:いやいや、その点は悟りに比べたら微々たる要素です。まあ、とにかくそういう囮としての地位を確立したとことが、ぼくのゴールの大きな理由。最後の最後にだけ4人目として働くことに専念した結果です。普通のプレーをめざしてしまった雄一との違いですね。あの試合は短時間の間にずいぶんとぼくの前にボールが転がってきましたが、ぼくのプレーといえばシュートだけですから。
サンパッチーニ:なるほど。準備についてはなんか分かった気がします。
高志:あとはですね、出場できそうな試合を逃さない、ということですね。さきほども触れましたが、木下監督の様子を見ていた結果、試合中のベテラン枠には基本的に雄一が入っていたんですね。だとすると彼がいる日は、ぼくの出番は可能性が低いんです。だから雄一が来られない試合がぼくにとっては大事なんですね。ずっとチャンスをうかがっていましたよ。
サンパッチーニ:そういえば選手権でゴールを決めたときも雄一はいませんでしたね。
高志:はい、その通りです。あの日は残念ながら木下監督まで不在だったのですが、ぼくの囮としての価値がはっきりと証明された日でもあります。あの日のゴールが都リーグのゴールにもつながっていますね。
サンパッチーニ:あの日も相手は美少年でした。
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高志:相性が良いのでしょうか。美少年のみなさまから、相当やっかいな選手とある意味誤解されているかもしれません。
サンパッチーニ:後半にも1点からんでいますしね。個人的にはあの時の反転シュートも感心しました。
高志:だいたいの選手ならドリブルするんじゃないかな、あんな風にボールを受けたら。
サンパッチーニ:木下選手からヘディングのパスでしたね。
高志:はい、ゴールは見えていませんでしたが、ぼくはドリブルできませんから。何もできないからシュートという選択肢しかなかった。だから強引にシュートを打ちました。それが相手にとっては予想外だったんでしょうね。え、打つの?って。基本的にキレもないシュートだったと思うんですがキーパーも驚いたのか、キャッチできずで、こぼれ球を本多が押し込みました。積極的なシュートが大事とはよく言いますが、まさにこのことです。とくにぼくは出場機会もなくて、ゴールへの飢えが人一倍だったので、まあ、打つしかないですよね。出場してシュート打たないなんて、そんなもったいないことないですから。
サンパッチーニ:たしかにテクニックのある選手ほど、シュートを打たない、みたいなことも言われていますね。
高志:雄一が、若干そんな感じかと思います。
サンパッチーニ:雄一選手にもがんばってほしいですね。
高志:そうですね。あの、けっこうしゃべった気がするんで、今日はこの辺でもういいですか?息子をお風呂に入れないといけないので。
写真提供:東京都フットサル情報サイト【FutsalStyle】
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